コナミ・教育シリーズの謎


MSXにまつわる伝説のうち最も有名なものの一つに、「コナミは当初ゲームを教育ソフトとして売っていた」というものがあります。しかし皆さんが意外に知らない事実が2点あります。ゲームの発売から20年、教育シリーズの神秘に迫ってみようではありませんか!

まずは教育シリーズ全作品を一通りご紹介しましょう。

教育シリーズ1・けっきょく南極大冒険
けっきょく南極大冒険・パッケージ記念すべき教育シリーズ第一弾「I love 地理」。コナミMSXソフトの第一陣の一本でもあります。

ファミコンにも移植されたので知っている方も多いと思います。アザラシやクレバスを避けて南極大陸を一周するというアクションゲームで、愛らしいキャラクターとスイスイ走る快適なプレイ感覚が人気を呼びました。

が、それを地理の教育ソフトと言い張ってしまう根性は並大抵のものではありません。

元はと言えば会社からの指示で教育ソフトを作らざるを得なかったスタッフが「プレイしている時に学ぶのではなく、学ぶべき知識や情報があのゲームで同じようなことがあったなと気付いてくれる、または自然に覚えるソフトにしよう(コナミマガジンvol.5より引用)」ということになって開発したのでそうです。

はっきり言って強引です。

さらに言うと、「I loveシリーズ」はカシオペアの「I LOVE N.Y.」からのイタダキということもコナミマガジンでは暴露されています。




教育シリーズ2・わんぱくアスレチック
わんぱくアスレチック・パッケージ教育シリーズ第二弾「I love 体育」。第二弾なのですが、実は製品番号が「けっきょく南極大冒険(RC701)」より若い(RC700)というのがいきなり謎めいています。発売は同時でしたから大した問題ではありませんが。

これまたアクションゲームで、アスレチックを果てし無く進むという内容。MSX初期ながら軽快な操作感のあるゲームです。
もっとも、このアスレチックは人頭大のイガグリ触れただけで昏倒するハチが出るという点で何とも言えない問題があるのですが。


さて「I love」シリーズに共通する点として、付属の説明書がゲームの説明をしていないという凄まじい要素があります。では何が書かれているのかというと、「けっきょく南極大冒険」では南極の氷のことやペンギンの紹介、南極の探検史といった内容です。「わんぱくアスレチック」はスポーツの語源、オリンピックの起源、さらにはスポーツの意義といった、ゲームと全然関係ない…いやいや、教育的な内容ですね!ちなみに「トレーニング中に水を飲まない方がいいというのは迷信」「うさぎとびは危険」といったこともこの時代にして書かれています。



教育シリーズ3・モン太くんのいち・に・さんすう
モン太くんのいち・に・さんすう・パッケージ教育シリーズ第三弾、「I love 算数」。やっと教育ソフトらしいものが出てきました。

画面上に表示される虫食い算の正しい値を出してからゴールに行くとクリア…なんですが、選ぶべき数字がどこにあるのか分からないという点がちょっとよく分かりません。正しい数字が出たと思ったらBボタンを押す、という点でかろうじてゲームになっています。

ところでこのゲームはコナミMSXソフトとしては初めて2ボタンを使用するゲームなのですが、後年の「スペースがA、NまたはMがBボタン」というよく知られたキー配置とは異なり、セレクトキーがBボタンという妙な配置になっています。

ちなみに説明書はタレス、ピタゴラス、アルキメデスの簡単な伝記です。ではゲームの操作説明はどこにあるのかというと、箱の裏に書かれています。そのため、初期のコナミMSXソフトには「I love」シリーズ以外別冊の説明書はついていません(「ハイパーオリンピック」シリーズだけはペラ紙が入ってます)。




教育シリーズ5・ぽんぽこパン
ぽんぽこパン・パッケージ教育シリーズ第五弾、「I love 社会」。オートメパン工場でパン職人のジョーがタヌキを退治するゲームです。

主人公のジョーはパン職人と言いながら、やっていることは機械のスイッチを入れることとタヌキの退治だけというのが実に含蓄のあるゲームです。しかも「教育シリーズ」ですよ。「I love 社会」ですよ。社会風刺ゲームの間違いではないでしょうか。

ジョーがタヌキを退治するときに超音波みたいなものを出していますが、これは説明(箱の裏)によると催眠銃を発射して眠らせているのだそうです。でも僕だったらこんなタヌキだらけの工場で作ったパンはイヤだなあ…。尻尾でパンをはたいたりしているし…。

説明書はなんとこれだけがカラー。パンの小歴史と世界のパン、パンのおもしろ百科。サンドイッチ伯爵って海軍大臣だったのね。ためになりました。




さて教育シリーズ1〜5の全4本をご紹介致しました。

はい、分かっております。「4がないじゃないか」、そうですね。MSXユーザーですら滅多に知らない衝撃の事実なのですが、ないのです。

しかし発売予定であったタイトルは分かっています。

前述の「コナミマガジンvol.5」の記事、これは1997年に発売されたプレイステーション用ソフト「コナミアンティークスMSXコレクションvol.1」の予告記事として、当時のMSXソフト開発スタッフにインタビューしたものなのですが、KCE東京/CS第四取締役開発部長(当時)の三品氏のインタビューに対してこのような注がついていたのです!(下線は筆者が追加しました)

「ハイパースポーツ1(I LOVE 理科)」の記述
そう、「ハイパースポーツ1」は本来「I love 理科」として出るはずだったのです!しかし現在見ることのできる「ハイパースポーツ1」のパッケージは…
ハイパースポーツ1・パッケージこんなんです。一見「1」が「I love」シリーズのそれに見えますが、単に「2」につなげるためのナンバリングです。「I love 理科」の文字はどこを見てもありません。
なぜ「I love」シリーズから変わってしまったのかは定かではありませんが、同じ「コナミマガジンvol.5」のKCE大阪/取締役開発部長(当時)の長江氏の「ハイパースポーツ」の項によると…

このシリーズはなんと、I LOVE 理科という教育ソフトとして開発がスタートしました。テーマはバネで、飛び板、トランポリンなどを通じてバネについて勉強してもらおうという無謀な企てでした。

とありますから、「ハイパースポーツ」が「I love 理科」であったことは事実のようです。バネだから理科、というのは十分に理解できます。

では、なぜ「I love」シリーズとして出なかったのか?以下は全くの推測ですが、「わんぱくアスレチック」の存在がカギではないかと思われます。
「わんぱくアスレチック」が体育なのに、「ハイパーオリンピック」の続編である「ハイパースポーツ」が理科という矛盾に経営層が気付いたのではないでしょうか。

しかし、このようなパッケージも確認されているのです。
けっきょく南極大冒険・新パッケージわんぱくアスレチック・新パッケージ分かりますか?「I love」シリーズの表記がないバージョンが存在するのです。

中の説明書、というか南極やパンについてウンチクを語った小冊子も入っていますが、「I love」の表記だけが消されています。カートリッジも同様です。


このページのゲームは全て1984年に発売されていますが、当初の社名は「コナミ工業株式会社」でした。「モン太くん」までは「コナミ工業」からの発売です。後に「コナミ株式会社」になりました。

それがこれらのパッケージは「コナミ株式会社」と新しい社名になっていますから、明らかに再販分であると言えましょう。「I love」シリーズは抹消されてしまったのです。



この他にも「モン太くんのいち・に・さんすう」にも非「I love」版があることが確認されています。持っていませんが、Yahoo!オークションに写真と共に出品されていました。「ぽんぽこパン」は未確認ですが…。

ということは、「I love」版のハイパースポーツ1が存在する可能性があります

もっとも、その可能性は極めて薄い、というかたぶんゼロであると思います。
「けっきょく南極大冒険」「わんぱくアスレチック」のいずれも、非「I love」版は見かける数の上で圧倒的に少ないのです。やはり再販分だけあって出荷数も少ないのでしょう。それに対して「ハイパースポーツ1」はかなりの数を見かけましたが、全てが非「I love」版…というのはやはり無理があります。最初から無かったと考えるべきでしょう。

万が一「I love 理科」を持っている方がいらしましたら、当研究室までご一報を!


というところで今回のレポートを終わりたいと思います。

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