ぶた丸パンツ

HAL研究所・ROM版MSX1対応
4,800円・1983年発売

MSXPLAYer…ゲームリーダーにて正常動作


MSXのゲームは一説によると約5,000種類が発売されたと言われております。その中で一番好きなゲームを一本上げろと言われたら、私は迷わずこれを出します「ぶた丸パンツ」。MSXの黎明期に登場し、多くの人に愛された実にヘンテコなゲームです。「ハラハラドキドキのギャグゲーム」と解説にあるように、真面目に考えずに遊びましょう。

タイトル画面。ぶた丸とパンツがテクテク歩くとタイトルが出てきます。

マニュアルによると「主人公は子豚のぶた丸!?いじわるな『雷のパンツ君』が落とす卵をどんどん受け止めて、赤い卵なら投げ返してやっつけよう!」とあります。しかしどうしてこのような状況に彼らが陥ったのか、解説はありません。

そもそも「ぶた丸!?」といきなり疑問形です。開発陣の心意気はHAL研の営業さんにも理解できなかったのでしょうか。

ゲーム画面です。時代が時代だけに、タイトル画面とこの画面しかありません。

ただひたすら落ちてくる卵を手元のフライパン(?)で受け止めて、左右の土管に放り込んでいきます。15個のヒヨコマークが全て黄色になると面クリアとなります。

受け止め損なった卵は地面に割れて残ります。これがとても受け止めきれない量が落ちてくるので、どんどん地面が卵まみれになっていきます。しばらくすると「ちりとりオジサン」なるキャラクターが掃除に来ます(原文ママ)が、牙の生えたパックマンといったものでどう見ても人間じゃありません。しかも卵を食べるごとに巨大化します。怖いよママン!


地面の石につまづくとぶた丸クンはズッコケます。しかし不屈の精神により卵は絶対に落としません。慣れると「コケている状態で卵を拾う」ことができるようになります。どうでもいいようなことに見えますが、石の増える高次面では必須のテクニックです。


さて赤い卵の使い方。受け止めた後に投げあげて…。

パンツを撃墜!
ちなみに外れると物理法則を無視して空の彼方へ飛んで行きます。

白い卵も投げ上げることはできますが、なぜか飛距離が足りず途中で落ちてきます。それをまた受け止めることも可能です。妙なところにこだわりのあるデザインですが、そのどれもが全体としてシュールさを増す方向に向かっています。

なぜか赤い卵は土管に入れてもポイントになりません。


ぶた丸死亡の図。卵に直撃されたり、撃墜したパンツにぶつかったりすると死にます。しかし、卵はいくら落としてもミスにはなりません(ちりとりオジサンの出現頻度が上がるだけ)。

そして果てしない戦いは続く…。


単純ながらよくできているゲームです。軽快な動きもさることながら、卵の落ちてくる場所を予想しつつ先を読んで対処しないとすぐやられてしまうため、意外と戦略性も高くなっています。

ヘンな設定でヘンなキャラクターが卵の投げ合いで勝負する、というホノボノした風景は当時のMSXユーザーにはあまねく知れ渡っておりました。BGMこそありませんが、ぶた丸の歩く「デケデケデケ」という音、死ぬほどマヌケなジャンプ音などが実にいい。今なら携帯電話あたりに持っていけば受けそうです。

しかしMSX初期のゲームだけあって、現在入手しようと思うとなかなか大変です。裸のROMもなぜかあまり見かけません。ましてパッケージつきとなるとこれが本当にない。ようやく入手した当研究室蔵の一本も、上の画面のように接着剤の跡のようなものがついてしまっています。

この他に東芝から発売されたパッケージも存在しますが、HAL研版より入手は困難でしょう。ただし元々それほど需要がないので、どちらでも1,000円くらいで買えます。

さてこのゲームの個人的な想い出を一つ。MSXを趣味として長らくやっております私ですが、実はこのゲームを好きといえない時期がずっと、そう10年くらいはありました。MSXが落ち目になりだした90年代前半の頃は、バブルの時代の余波がまだ残っており、安い8ビットパソコンというものに対する世間の目が非常に冷たかったこともありますが、それ以上に私自身が若かった。単純なゲームというものに対して素直に好きと言えなかったのですな。

今でこそゲームボーイアドバンスや携帯電話のコンテンツなどで単純なゲームがむしろ人気を呼んでいます。しかしハードウェアがぐんぐん進化していくあの時代にMSXの、しかも初期のゲームなんて誰も振り返る人はおりませんでした。そんな世間の流れに逆らって「ワタシ、実はぶた丸クンのことが好きなの!」とは言えず、想いを秘めたまま時間は流れ約10年。ふと思い出して「ぶた丸パンツ」を手に入れて見ると、これが実に楽しい。一時間も遊んだ頃でしょうか、かつてのことを思い出して自分を恥じた次第であります。すまなかったぶた丸。許してくれぶた丸。先生は君を忘れたわけじゃないんだ。

しかしデジタルなので、ぶた丸パンツは何も変わらず僕の前で卵を投げ合っているのでありました。デジタルは便利だ。


「MSXマガジン永久保存版」も1・2号と出たのですから「ぶた丸パンツ」を再度世に問うて欲しいのですが、このゲームの権利はどうなってるんでしょうかねえHAL研さん。

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