頑張れトラックボーイ・ペイロード

SONY・ROM版MSX1対応(RAM16K以上)
4,900円・1985年11月21日発売

MSXPLAYer…ゲームリーダーにて正常動作


MSXの中でも知る人ぞ知る作品、それがこの「頑張れトラックボーイ・ペイロード」です。MSXの立ち上げ期に発売されたゲーム群の中では珍しく、強いシミュレーション色を持っていました。タイトルそのものは多くの人の記憶に残っているようですが、いかんせん完品の現存数が少ないためか、その魅力を伝える記事がほとんどありません。実は私も過去に遊んでいながらどんなゲームだったか記憶がオボロゲになっていた一人でした。ようやく最近になって箱・説明書と共に入手できました。

まずこのゲーム、パッケージを見るとアメリカンな感じがしますが、背景の地図には「KANAGAWA」「GOTENBA」などと日本の地名が書いてあります。さらにマニュアルにはプレイヤーのことを「ウワサのトラッカー、鉄」とか書いてあります。鉄の人となりは説明書にこのように書かれています。
日本全国を北から南へ、東から西へと32トントラックで荷を運ぶタフなやつ。気は少し荒いけど、安全運転でマナーもいいんだ。彼のトラックは、ターボも無線もついたフル装備。トラッカーたちのあこがれのマシンだ。
ぼくが何か言おうとすると、もう彼はそこにはいなかった。飲み残したコーヒーのカップはまだ暖かかった!
カッコいいぞ、鉄!プレイヤーはそんな鉄となって運送会社の社長になるのが目標です。

わりと有名なタイトル画面です。軽快な音楽と共にトラックが右から入ってきます。よく見ると排気の煙が出ているのが可愛らしいですね。

スタート画面。ここは北海道です。

各県に一つある配送センターで表示される仕事票を元に、仕事を受けるかどうかを選択します。時間内に配達できれば報酬がまるまる貰え、遅れるとペナルティとして減額されます。そうして貯めたお金でトラックを改造したり装備を買い揃え、最終的に所持金(ポイント)を100万にするのが目的です。100万稼ぐと運送会社の社長になってゲームエンドとなります。

ちなみに、この100万には単位がありません。円ではないらしいです。


これが仕事票。荷物の種類はあまり関係ありません。重要なのは重さ、距離、タイムリミット、そして報酬(ポイント)です。近距離ほど安いのは当然ですが、あまり遠距離だと時間が足りなくなる恐れもあります。そのあたりのバランスを見極めて仕事を受ける必要があります。


このゲームは自分以外の一般車も信号などにキチンと従って走っています。追突したり道を外れると、修理のために所持金が減ると共にある程度の時間が経過します。お金が0以下になる、免許の持ち点が0になる(取り消し)、燃料がなくなる、のいずれかの条件を満たすとゲームオーバーです。

また連続して運転していると疲れが溜まり(%で表示される)、100%を超えるとハンドルが切れなくなります。止まっていると徐々に回復するほか、ドライブインで「ねむけざまし」を買うといきなりゼロになります。ちょっと怖い。


一般道にはパトカーが出現します。このパトカー、スピード違反は勿論のこと飲酒運転積載量オーバー(過積載)までも取り締まってきます。どうしてそんなことが起こるのかというと、

1.「おさけ」はドライブインで買うと「疲れが進むのをしばらく止められる」効果がある、とマニュアルに書かれています

2.「積載量オーバー」、このトラックの積載量は32トンなので、それ以上の荷物を積んでいる時に起こります。もちろんヤバい仕事ほど実入りもイイのは当然です。

パトカーは突然出てくるのではなく、他の車に混じって常に動いています。真後ろにつかれない限り違反は取られないので、テクニックを駆使することにより取り締まりを逃れることができてしまいます。

ちなみに一般道でいつまでも止まっている分には、なぜか違反になりません。


場所によっては「ねずみ取り」、いわゆるオービスが設置されています。この場合、パトカーがいなくてもスピード違反を取られます。対応策として、パーツショップでレーダーを買うことで事前に感知することが可能となります。また、無線機を持っているとオービスの有無が分かります。トラッカー同士の情報交換でしょうか。


県をまたぐと突然信号もない田舎になることがあります。信号がないので好き勝手に車が走っている他はそれほど都市部と違いはないのですが、あからさまに描写が違うのでちょっと心配になります。ちなみに、ここは秋田県です。北海道と青森県は都会だったのに・・・。



ポイントが0になり、あえなくゲームオーバー。鉄が頭をポリポリ掻いています。頭にハチマキ、胴にはハラマキ。パッケージのテンガロンハットの人は一体誰なんでしょうか。

沖縄を除く全都道府県が入っている、一般車やパトカーなどが信号に合わせて個別に動く、有料の高速道路で時間を短縮できる、パーツを買ってトラックを強化できる・・・など、コドモ心をくすぐる要素を押さえて作られていることが分かります。

ゲームとして面白いか?と言うとちょっと微妙で、軽く遊ぶにはドライブ気分が手軽に味わえてよいのですが、マップは田舎と都会の大きく二つしかありませんし、ひたすら荷物を運び続けるだけなのでやや単調です。最近では完品に1万円程度のプレミアがついているようですが、そこまでして手に入れる価値のあるゲームか?というと、疑問は残ります。それでも、今なお多くの人から愛されている不思議な魅力を持った作品であることは確かです。

ちなみに、通常「F1」キーを押してゲームスタートするところを「F2」キーでスタートするとゲーム中のメッセージが全て英語になる、珍しい裏技があります(この他に、通常20万の所持金が90万から始まる技もあります)。

ところで、100万というのはなかなかに遠い目標のため、この当時としては珍しくセーブ/ロード機能がついています。しかしそれでもチマチマと稼いでいたのではいつまでたっても目標を達成できそうにありませんね。

そろそろお気づきでしょうが、このゲームは真っ当に走っているとなかなかお金が溜まりません。過積載で大きく稼ぎ、疲れは「ねむけざまし」で一発解消。ターボ改造などで速度を上げつつもレーダーでネズミ取りは華麗に回避・・・というある意味で現実的なトラッカーの姿がゲームを通じて自然に浮かび上がってくるわけです。エンディングでは運送会社の社長となってビルが立つそうですが、ビルを建てるにはそれくらいやらにゃあアカンよというのがこのゲームのメッセージのようです。

このゲームの発売元こそソニーですが、開発元はあのザップです。MSXユーザー間でよく言われるように、ゲームに対する愛情がかなり欠けていたメーカーです。ですが現在ではむしろその愛情のなさ故の特異な作風が再評価されつつあります。「ペイロード」はそんなザップ作品の中では割と人気のあったほうですが、それは一見ほのぼのとした外見の中に隠されたオトナの社会を感じさせる犯罪の香りこそが子供の心を惹き付けてやまなかったのではないか、と思います。

今見るとそうしたダーティな要素に対する作り込みはちょっと異様なほどです。20年が経過した今でも本質的にトラッカーの抱える問題は変わっていないことを見ると、かなりの先見の明があったのやもしれません。ちなみにパッケージの外装には「ドライブゲームとマネーゲームがドッキング」なんて書かれたシールが貼ってありました。マネーゲームなんですかねえ、これは・・・。

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