ケビン・スペイシー、クリスを語る。
ケビン・スペイシーは彗星の如く映画界に出現し、たちまちにして周りの人間すべてを魅了してきた稀有な俳優である。彼の成功は、一夜にして有名になったという類のものではないが、「ユージュアル・サスペクツ」はもとより「The Ref」[Swimming With Sharks][
「摩天楼を夢見て」などで彼が見せた演技や、思わぬ伏兵的役柄で観客のどぎもを抜いた
「セブン」などは、他のベテラン俳優がでくの坊に見えるほど、的確で、誰もが舌を巻いた素晴らしさだった。
もちろん出演した映画の中には、端役にちかいものもあるが、スペーシーの優れたところは、彼の資質が古くよき時代のハリウッドのスター、スペーシー自身が憧れたスペンサー・トレーシーに匹敵する、スター性をもっていることである。すなわち、ケビン・スペーシーは、スターが一般人とは違う世界に生き、ミステリアスで、性別を問わず観客を魅了する存在であった時代に生まれ、タイムマシンで現代に送り込まれた俳優だとも言えるのである。
アトランタで公開された彼の新作「デビッド・ゲイルの生涯」で全観客を魅了した翌朝、彼は我々地元の記者を前に、映画のことや、その場の思いつきで聞かれた様々な質問に嫌な顔もせず気軽にこたえてくれた。とるにたりない軽口のやりとりもあったが、私は、これまでずっと死ぬほど彼に質問したい事柄を直接彼にぶつけて聞いてみた。
ニック・ヌンジアタ:もうどれ位長くクリストファー・ウォーケンの物まねをしているんです?
KS: あぁ、あれはね「サタディ・ナイト・ライブ」に出演したおかげで、何だか訳が分からないうちにあれよあれよとやる羽目になったもんなんだよ。
5人位の友人がきて、いや、実は沢山の俳優たちがウォーケンの物まねをやりたがってたんだけど、僕はそれまで全然興味がなかったんだ。ちょうど週の半ばで、そうそうあれは「サタディ・ナイト・ライブ」リハーサル中の火曜日で、朝の2時に脚本家と、どんなエピソードを盛り込もうかとかと話し合ってたんだ。
一日中それにかかりっきりになった上、徹夜状態でね。だからもう朝の2時だとヨレヨレで、みんなくたびれきっていたんだ。そこで僕が「もう止めよう、止めよう、ちょっとしばらくの間仕事の話は止めないか」って言ったんだ。
それから全員でそれまでの「SNL」司会者の品定めをはじめたんだ。誰が一番酒飲みだったとか、だれが一番アホっぽかったとか。誰が文句ばかり言ってスタッフを困らせたかとかね。それでみんが口々に司会者の噂話を始めたんだ。
で、みんなウォーケンのことを物凄く褒めるんだ。「ウォーケンは素晴らしいよ。物凄く才能があるし。彼に出来ないことは何もない位、全てにおいて達人なんだ。腹を抱えて笑える位可笑しい人だし。ほら、彼が僕らみんなをボウリングに連れていってくれたり、それから「スターウォーズ」のオーディションに出た話したの覚えてる?」ってウォーケンの話をはじめるとみんな終わらないんだ。
で、僕の頭から、「スターウォーズ」でオーディションしたウォーケンのことが離れなくなった。僕は思ったね。一体彼のハンソロってどうだったんだろう?って。ちょっと待ってよ。あの、ウォーケンが「スターウォーズ」に?僕がそう聞くと全員が「そうなんだよ、考えてみてよ。大勢の有名俳優が「スターウォーズ」のオーディションに行って、誰一人役がもらえなかったんだ」で僕は、そいつは信じられない話だ、その話はSNLの爆笑エピソードになるじゃないか!って思ったんだ。
そこで全員がその話をもとに、前代未聞の「スターウッォーズ」スクリーン・テスト版ってのを作ろうと決めたんだ。そこでみんなインターネットとかを探し回り、その時使われた脚本なんかを手にいれて、いよいよ収録となったんだけど、
その時でも僕はまだ「僕にはウォーケンの物まねは出来ないよ。他の誰かがやってよ」って言い張ってたんだ。
すると他のみんなが「いやいや、君がやるんだよ」って言って
僕がまだ「駄目だよ、出来ないよ、友達に出来る奴がいるからそいつにやらせてよ」てつっぱねてたら、
みんなが「じゃあ、練習すればいいじゃないか」って言うから「でも今は火曜日だぜ、金曜日には収録を終えなくちゃならないんだ。馬鹿いうなよ!」って答えたんだけど
、実際は水曜から金曜の間に録画取りの部分は収録しなくちゃならないんで、それにあわせて、正味2日間でウォーケンの物まねを完成させなくてはならなかったんだ。
で、ウォーケンの物まねが得意な友人に電話をして、やってもらってはテープに録ったり、
ウォーケンのビデオを何十本も借りて練習し、また入手した「スターウォーズ」の脚本を
読んだりして、最終的には金曜日の朝にようやく収録が終わったんだけど、
その場の全員がそれを見て腹をかかえて大笑いしてるんだ。
もちろんウォーケンの物まねでは自分が一番と豪語している友人たちはみんなカンカンになったよ。
何故なら、A:彼らは僕よりウォーケンの物まねが上手だ。ずっとずっとね。B:それでも、その物まねをテレビの生放送で
やったのは僕が最初だったから、僕はたちまちウォーケン物まねスターとして有名になったんだ。だから友人たちは頭から湯気を立てて怒り狂った。だから彼らは今では僕に誰の物まねもやってくれないんだ。絶対僕がそれを盗むと思っているからね。
その後彼はウォーケンの物まねを、あの独特な口調でやってのけ、その場の全員が熱狂した。その場の全員が愉快で楽しい時をすごせたのだが、私はケビンとの貴重な25分が失われるとあせりまくった。おまけにその時別のジャーナリストが割り込んで、新作の話をはじめ、ありきたりの記者会見の質疑応答がはじまってしまった。話の大部分は別のインタビュー記事を読めば誰にでも分かることで、この役のどこに惹かれて出演を引き受けたのかとか、眠っていても答えが予測できる様な質問を重ね、再び貴重な時間がうばわれていった。スペーシーは何度と無く繰り返されただろう退屈な質問にも紳士的に丁寧に答えていたが、その質疑応答で大事なインタビュー時間の1/3が飛び去っていった。最後になって、ようやく私の興味のある質問に移ることができた。
ニック: あなたはこれまでレスター・バーナム、バーヴァル・キント、バデイ・アッカーマン、そしてデビッド・ゲイルとかなり特異な役を演じてきていますが、脚本を読んだ段階で、これは自分にぴったりの役柄だと感じることがあるのでしょうか?
KS: それは脚本を渡された段階で、自分がどの役を演じるか決まっているかどうかで違ってくる。例えば「ユージュアル・サスペクツ」の場合、脚本が渡された段階では、自分がどの役を演じるのか分かっていなかった。ただ僕はどの役を演じるかを知らずに脚本を読む方が好きだけどね。場合によっては脚本を読めば自分がどの役を演じるのか、黙ってても分かるものもあるけどね。「デビッド・ゲイルの生涯」では男性の役がほとんどなかったから、自分がデビッド・ゲイルを演じるのだってすぐに分かったし。また場合によっては脇役で、自分にぴったりな役だと思うこともある。「アメリカン・ビューティ」の時は自分が主役を演じるのが分かっていた。でも自分がどの役を演じるのが分からないで脚本を読んでいると、この役も面白そうだし、これもやりたいな、って結構楽しめるんだ。時にはこれは凄い役だ、絶対演じてみたい、何て思ってると、トム・ハンクスに決まっていて、自分が馬鹿みたいな気分になることもあるけどね。 映画ってときどきものすごいひどい映画で素晴らしい演技をしている俳優を見ることもあるし、逆に素晴らしい映画なのに、ひどい演技をしている役者もいる。僕としては、全てをパーフェクトにしたいんだ。つまり素晴らしい映画で素晴らしい演技を披露する。それが最高だと思うし、映画って勿論一人の役者のためにあるわけじゃないから、多くの人々の共同作業の中で最高のものをつくりあげるべく努力するのが理想だと思っている。そしてその共同作業が成功するのは奇跡の様なものなんだ。多くの映画がそこで失敗している。君たちも知ってるだろうが。
そこで我々が知らされたのは、インタビュー時間がもう終わりだということだった。ケビン・スペーシーは本当に素晴らしく魅力的な、カリスマ性を備えたスターだった。彼は一人漫談をやってきて、TVにも出て、素晴らしい演技の数々を披露してきた。願わくは、この稀有な才人との6時間をもう一度持ちたいと、私は心から祈っているところだ。(終)