MSXで一番凄いゲームは何か?答えは人の数だけありましょうが、恐らく他の誰からも上がることのないであろう本タイトルをあえてご紹介したいと思います。
まず本作の一般的な評価は極めて低いことをお断りせねばなりません。
このシステムではゲームと呼べないというのが主だった批判の理由で、私もあえて否定しません。
しかしこのゲームに秘められた狂気は只事ではない濃密さであり、元々18禁タイトルではありますが、あえて25禁くらいにしておかないといけないのではないか、と本気で思うほどです。
ビデオゲームの製作は、プログラミングという理性を保って行うべき行為を伴う関係上、狂気というものの表現は本質的に難しいと言えます。共同作業を伴うプロ作品ではなおさらです。しかし、本作は狂気の塊とも言うべき内容です。
さて「3」とあるようにこの「韋駄天いかせ男」シリーズは全3作+1作存在します。
「韋駄天いかせ男・麦子に逢いたい」
「韋駄天いかせ男2・人生の意味」
「韋駄天いかせ男3・戦後編」
「韋駄天いかせ男・愛をありがとう」
本編の3作と、ソフトベンダーTAKERU専売の「愛をありがとう」が存在します。
基本的なシステムはどれも同じで、後述しますが一本道のシナリオを見る上での時間稼ぎにしかなっていません。
見るべきはその狂ったストーリーと音楽、繰り出される含蓄のありそうな「いかせ語録」です。
本編の中で最も後発の「戦後編」はシリーズ随一の発狂度を誇り、それがために一番オススメです。
率直に言って、このゲームはあまりにあまりな内容なので、合わない人のほうが多いでしょう。
それでも見たい!知りたい!後悔はしない!という方のみ、以下をお読みください。
繰り返しになりますが、18禁とはいえ全くエッチな内容ではありません。確かに女性の裸こそ出てくるものの、うれし恥ずかしいシチュエーションなどというものは全くもってありません。それでも、未成年の方は見ないほうがいいです。オトナにならないとこの面白さは分かりません。
来ましたね。
来てしまいましたね。
警告はしましたよ。
では、どうぞ!
一九四五年八月六日
一個の爆弾が
日本の運命を変えた
そして、そのガレキの中から
一人の男が長い眠りから
覚めた
八月十五日正午
ポツダム宣言受諾発表
日本は負けたのです
一体何事かとお思いでしょうが、こうなんだから仕方がありません。
「祖国の復興に励みましょう」と言われても。
この後やっとタイトル画面です。
買出し列車の中で女学生が襲われています。
「ファファファ、俺だ、いかせ男だ!」
あなたはいかせ男となって彼女を助けるのだ!
「チカンは俺がイカせた 安心しろ」
開始5分で男をイカせる主人公。
はい、ワケわかんないですね。
「言葉だけでイカせることのできる男」、それこそがいかせ男です。
そんな事言われても全然分からないでしょうが、とにかくストーリーは相手をイカせることで進行します。
そして次の瞬間、助けたはずの女学生をイカせるべく言葉責めをかけるいかせ男。
行動原理も全く分かりません。
ここからようやくゲーム(らしきもの)が始まります。
問題の「いかせシステム」がこちらです。
テンキーで00〜99の数字を3組作ると、それに応じて右のウインドウに言葉が表示されます。一定の組み合わせでボルテージが上がり、左下のゲージ(お下品)が右端に到達するとシーンクリアとなります。
言葉はマニュアルに全て載っていますが、組み合わせは機械的なものなので「道徳を/老人慰問に/はいはいさせる」など、全く意味が通らない場合がほとんどです。
もちろん、どの組み合わせでボルテージが上がるかなんて全く分かりゃしません。
シナリオは、前述の通り全くの一本道です。
選択肢もありません。
ストーリーも限りなく意味不明です。
これは先ほどの女学生をイカせた状態。ここに至るまでに数回ボルテージをMAXにしなくてはなりません。女学生だけではなく、なんだか皆さん大変なことになっておられます。
感極まった女学生のセリフがこれ、「ああ、恋の弾丸列車よ〜!!自由は美しいわ〜!!」。
詳しいストーリーはとても載せられません。
イカ、じゃなくて以下はダイジェストでお送りします。
「お前に納豆をあげようコスミダ、って聞こえます」
「それはくろさわあきらこといかせ男の囁きよ、金田ドロシーさん!」
この飢えた少女はイカされた後、手から無限に納豆が出るようにして貰えるようになり飢える心配がなくなります(本当)。
万引きをしようとした少年に暴力を振るうGIのロバート。
この後風車が飛んできてGIに刺さった後、なぜかパンパンガールがイカされます(本当)。
入水自殺を図る男女二人。
男の方は「しゅうじさん」と呼ばれています。やはり元ネタはこのへんでしょうか。唐突に水の中でいかせ男に出会う二人の運命は!
ランダムで出てくる「いかせワード」ですが、たまに妙に味わいのある言葉が出てくることがあります。
作業と思わずじっくりと楽しみつつ、濃厚を時間を過ごそうではありませんか。
ちなみに「しゅうじさん」が死んだ後、女性「サッちゃん」のほうも白目を剥いて死んじゃいます(本当)。
そろそろお気づきでしょうが、いかせ男は「言葉だけでイカせることができる」という人物であるため、全てのシチュエーションにおいて相手が一人で悶えている絵ばかりです。決してレイプなどではないのです。紳士たるもの、こうでなくてはね!(本当かよ)
最終ステージは上野の山。
西郷どんの銅像の周りに行き倒れがゴロゴロしています。
左の方は男性です。
右の全身タイツっぽいのがいかせ男、その人です。
何をやってるのかは…聞かないでください。
何が一番なのかも聞かないでください。
そして男をイカせるいかせ男。
裸になっててもちっとも嬉しくありません。
そして宇宙を飛んでおられます。
もうどうにでもして。
最後、いかせ男は何者かに後ろから殴られて気絶した後、「きたちょーせん」に連れ去られてしまいます(本当)。
最後は「1950年、朝鮮戦争勃発」の文字の後、「完」。
いかがだったでしょうか?
書いてる私も分かって貰える自信がなくなってきました。ただひたすらブッ飛んでいるシナリオであることが伝わると幸いです。
そういう意味でだけ、MSX随一と言ってよいでしょう。
システム面での難点としてはセーブ機能がないので、どうしても一気に遊ばないといけません。ただ全体のボリュームは薄いので、4時間くらいでしょうか。これで6,800円という価格というのは当時の事情を鑑みてもいい度胸という他ありません。
当時開発に関わった方の話によると、最初に発売された第1作「麦子に逢いたい」PC-8801版が(それなりに)好評だったので、MSX2用に1作目の移植と、新作として2・3作目「愛をありがとう」「戦後編」を作ったもの、なのだそうです(本当は同時発売の予定だったのが、「戦後編」のみ3週間遅れたとのこと)。
どうも社長が気に入ったというのも有力な理由の一つらしいんですが、今もってそのあたりは謎です。
ただひたすら熱い情熱が空回りした結果、異様なオーラを放つ作品になっております。
それでもやはりプロの作品なので、手抜きは感じられません。絵はいささか荒いですが、いかせワードの入力のレスポンスも良く、中でもPSGのみとはいえ音楽はかなり頑張っています。特に最終ステージの「青い山脈」を思わせるアレンジなどはかなりのもので、それなりに退屈な手間のかかるゲームシーンを盛り上げてくれます。
最後に必勝法の解説をば。
適当に数字を入れて、一度ゲージが伸びるところを見つけたらあとは数字を+4ずつして行くと、グングンとボルテージが上がります。
これだけです。
当時の攻略記事などにもよく載っており、本作の評価を下げる一因であったことは否定しません。
このゲームの問題はそこじゃないだろうと言いたくもなりますが、「戦後編」の凄さはある程度の年齢を経ないと分からない、とも言えます。私は凄いと思いました。ここまでどうにかなってしまえる、人間の可能性というものを感じます。
さて今からやってみたいと思う方がいるかどうかは疑問ですが、万が一やってみたいと思われる方もいるでしょう。
それが簡単に手に入るからビックリです。
EGG(ファミリーソフト)作品一覧
ちゃんと「麦子に逢いたい」から「戦後編」まで3作取り揃えております。
注意として、シリーズ物ですが、困ったことに1作目が一番つまらないので、この「戦後編」からやることをオススメします。ストーリーはほとんど繋がりがありませんし。この世界観についていけるようなら「愛をありがとう」、次いで「麦子に逢いたい」をプレイしてみましょう。ワケのわからん言葉、セーブできない、分岐もへったくれもない一本道、このあたりのシステムは全く持って一緒です。
ちなみにパッケージ版は内容が内容だけに超レアです。私が買ったときは需要が全くなかったのかYahoo!オークションで2000円でしたが、今は2万円とかします。しかし内容はこんなんなので、手に入れようとするのは止めたほうがよいです。
さてEGGの一覧を見ると分かりますが、TAKERU専売だった「愛をありがとう」がありません。なんとファミリーソフトにも残っていないとのことで、当研究室でも長らく探している一本です。パッケージがないがために保存されることの少ないTAKERU専売ソフトはレアだけど値段もつかず、入手は困難なのです…。お持ちの方はご連絡を!