MSX同人ソフト紹介・用語集

 本文中の説明のうち、現在では使われない、あるいは意味の変化があったものについて扱っています。
 他にも分かりにくい言葉などありましたら指摘して頂けると助かります。
ソフトベンダーTAKERU
ブラザー工業(株)によって開発され、1986年4月から1997年2月まで稼動していたソフトウェアの自動販売機のこと。

1986年〜1991年は赤い筐体で、「ソフトベンダー武尊(たける)」の名称で稼働していた。機能が変更(MSX用ROMカートリッジ供給の廃止、2HDディスク対応、ドットインパクトプリンタからレーザープリンタへ変更)されると共に黄色の筐体となり、「ソフトベンダーTAKERU」となった。また、1994年〜1997年は(株)エクシングの運営下にあった。

ISDN回線で中央からデータを送り、販売機内のフロッピーディスクに書き込むことによって在庫切れなしで多彩なソフトウェアを販売できるという、当時としては画期的な試みであった。パッケージは共通のケースのみで、マニュアルは本体のプリンタで印刷する。

当初は既存のゲームソフトの廉価販売が主体であったが、TAKERU専売のゲームソフトやビジネスソフトも存在した。さらに1992年から最後まで同人ソフトの取り扱いも行われ、MSXを含むアマチュアソフトウェアの流通に大きく貢献した。最盛期には全国に約300台、登録ソフトは全機種で3000本といった規模で稼動していたが、パソコンソフトのメディアがCD-ROM主体になりつつあった1996年に営業終了の告知が流れた。ほとんどのTAKERUは1996年中に撤去され、1997年2月まで稼働していたものはごく少数であった。


TAKERUの営業終了を知らせるチラシ。当時TAKERU設置店で配られたもの。

黄色と灰色の機械がソフトベンダーTAKERUの本体。中央にブラウン管式タッチパネル画面が見える。右上にコイン/紙幣の投入口、左上に5インチおよび3.5インチフロッピーディスクドライブがある。文字がかぶっていて分かりにくいが、マニュアルはタッチパネル下にあるスリットから出力される。

右上に小さく映っている赤いのが初代「武尊」。


通信販売(通販)
郵便を使って代金や商品のやり取りをする販売方法のこと。

今でこそ電子メールやオンライン送金によるやり取りが可能となったが、インターネットの常時接続が一般的になりだす以前はアマチュアがソフトを売ろうとすると「通信販売」「即売会」が主流であり、例外を含めても「TAKERU」くらいしかなかった。

代金の発送によく使われた定額小為替は準備が面倒で、通販そのものを嫌う人も多いため特に即売会の需要は大きかった。郵便は事故の危険もある上に返答にも手間がかかる欠点があった。

今では考えられないが「不着の場合の問い合わせも1ヶ月待ってから」というのがマナーとされていた。問い合わせも手紙が前提だったのだ。
即売会
ある程度の広さの会場(小さくは会議室〜大きくは展示場レベル)を借りて、サークルとユーザー間で直接売買を行うイベント形式。代表的なものにコミックマーケットがある。通信販売の対義語としても使われた。

ユーザー側としては複数のサークルのソフトを手間をかけずに入手でき、サークル側もある程度の数をまとめて売ることができるため、双方にメリットがある。ただしソフト製作を開催日に間に合わせないと、売るものがなくて悲しい思いをする。

かつては「パソケット」という、同人ソフトの流通を主目的とした即売会も行われていた。現在は終了している。

パソケットやコミックマーケットににMSXサークルが出ることも多かったが、1993年以降はMSXサークルのみでイベントを開くことが長らく行われている(「MSX電遊ランド」など)。

MSXにおいて単に「イベント」と言った場合、即売会のことを指すことが多い。
ソフトの売買を伴わない「ユーザーの集い」というイベントもある。


「MSX電遊ランド2001」(2001年9月22〜23日開催)より。

左の座っている人たちがサークルの列。床の上にゴザを敷いて座っているのは「縁日っぽい演出」ということにしていたが、実は机を階上の倉庫から降ろせなかったための苦肉の策であった。


ノベル
文章表現が主体のゲームソフトのこと。背景画像の上に文章が表示されるのが一般的である。
文章作成と絵の分業がしやすく工程管理がしやすいこと、トータルの制作コストが低いことなどの理由から、プロアマ共に製作されるタイトル数は多い。

代表作に「かまいたちの夜」「ひぐらしのなく頃に」など。


BLUE EYES「13怪談」より。縦書きは珍しいが、MSX作品のノベル形式の例。

MIDI
ミディと読む。本来は音楽機器同士、またはコンピュータとの通信規格のこと。
現在では主にシーケンスデータのことを指し、(WAVやMP3などと比べて)音の良くない曲データを暗に意味する場合が多い。

しかし90年代においては「MT-32」「SC-88Pro」(共にローランド)など「MIDI対応の音源」を指す言葉だった。MIDI音源は当時主流のFM音源より高品質な音が出せたことから、MIDI対応というのは一種のステータスであった。再生するだけの場合にも高価なMIDI音源が必要だったため、聴ける人は当時でも多くなかった。現在は作曲環境以外で使われることはほとんどない。

MSX用にもMIDIの外付けインタフェースやシーケンスソフトが発売されていた。最終機種である「FS−A1GT」は本体にMIDI端子が内蔵されている。
OPLLDriver
MSXのFM音源とPSG音源で音楽を鳴らすための「音源ドライバ」の一つ。

BASICのPLAY文は途切れなく鳴らし続けることが難しかったので、BGMをつけたい場合は音源ドライバが必要となった。
OPLLDriverと言った場合、MSX-MUSICのROMに内蔵された簡易なドライバを指す場合もある(「PROLOGUEすちゃらかDISK」などで使用)が、多くはRing.氏作のドライバを指す。BASICの命令を拡張することで簡単に曲が鳴らせたことと、雑誌に収録される機会が多かったのでアマチュアでは広く使われた。

MSXでは他にMGS、MPKといったドライバがよく使われた。これらは標準でBASICの命令を拡張するタイプではなかった(後にドライバとは別に作られた)ため、マシン語で作られたソフトで使用されることが多かった。

OPLLDriverは他のドライバより曲が作りやすい反面、メモリを多く必要とするのが特徴。BASICから利用する場合、作曲用の「GRAPH」キーを押すと早送りになってしまう機能を無効にできない欠点はあったが、あまり問題にされてはいない。
RAMディスク
本体RAMの一部をディスクドライブと同様に使う機能のこと。

MSXは本体内のRAMを64KBより多く積んでいてもBASICで使えるメモリ量は増えない。残りを高速な、しかし電源を切ると消えてしまうディスクとして使うことができた。フロッピーディスクから転送する時間は必要だが、その後は高速にアクセスできる。よく使うファイルを起動直後に一括してコピーするのが一般的である。

RAMDISK機能を持ったMSX-DOS2が標準で内蔵されたturboR専用ソフトでは積極的に使用されている。最小構成のturboR(FS-A1ST)では最大160KBを利用できた。
ディスクマガジン
雑誌のように独立した複数のコンテンツが一つにまとまったソフトの形式のこと。

ミニゲームや読み物などから構成されることが多い。この形式の元祖である「ディスクステーション(コンパイル)」が元々MSX2用として創刊されたこともあり、影響を受けてディスクマガジン形式のソフトは数多くリリースされた。そのほとんどはメニュー画面にディスクステーションの影響を見ることができる。

MSX以外の機種においても開発しやすい形式でもあったため90年代中頃まではよく見かけたが、Webの発達により意義を失い現在見ることは少なくなった。
NV(NVマガジン)
MSXの同人ディスクマガジンのうち最も古くから続いている物。Syntax製作。

1989年創刊。不定期刊から隔月刊を経て、1996年以降は月刊発行となり、その時から「マガジン」が取れて「NV」になった。2008年始め頃まで発行されていたが、2015年現在は休刊中。
パッケージソフト
箱に入って売られている、一般的な市販ソフトの総称。

現在では「オンライン配信ソフト」の対義語として使われるが、過去には「雑誌にプログラムリストが載っているソフト」の対義語として使われることが多かった。
プロテクト
コピープロテクト、複製防止技術のこと。

フロッピーディスクは部分的に特殊なデータを書き込み、それをソフト側から検出することでコピーを防ぐことができた(コピーを取るための専用ツールなどがあった)。フロッピーディスクで供給される市販ソフトには、プロテクトがかかっているのが普通のことであった。

ハードディスクにインストールして使うソフトの場合、検出は原理的に不可能である。CD-ROMにプロテクトをかける試みも行われたが、最近はネットワーク経由の認証(アクティベーション)が普及しつつある。
市販ソフト
広い意味では有料のソフト全般のことだが、MSXでは主にプロの作ったゲームソフトのことを指すことが多い。対義語は同人ソフト。
一人サークル
文字通り、一人で活動しているサークルのこと。いささか自己矛盾のある名前だが、即売会などの登録はサークルが単位となるため、便宜的でもサークル名が必要となった。

当然ながら、ゲームソフト製作の要素の全て、プログラム・グラフィック・音楽・シナリオなどを一人でこなす必要がある。Windowsではとても考えられないが、MSXは開発規模が小さいのでこうしたサークルがいくつも存在した。

代表的なところでBLUE EYESTeamぷらんくとんM改PASTEL HOPETPM.CO SOFT WORKSTomorrows Soft.はなえちゃんソフトなどがある。一人サークルのソフトはたとえ粗削りでも作者の個性が存分に発揮されるため、独特な作風が際立ったものが多い。ある意味で、MSXらしいソフトを送り出したサークルと言えるかもしれない。
MSX-MUSIC
MSXにおけるFM音源の規格。単にFM音源と言った場合、MSXではこれを指すことがほとんどである。

元はカートリッジタイプの「FM-PAC」として1987年に発売され、安価(7,800円)であったために普及した。MSX2+以降は規格化され、本体にも内蔵されるようになった。市販・同人共に対応ソフトは非常に多く、MSX-MUSICの存在を前提としたソフトも多い。

使われている音源チップからOPLLとも言う。MSX以外を含めても同時期のFM音源としては最も貧弱で、かつ安価であった。
PSG
プログラマブル・サウンド・ジェネレータの略。いわゆるピコピコ音が出せる音源で、MSXには全機種に搭載されている。

音そのものが単純な上に3音しか鳴らないので、FM-PACが出るまでMSXの音周りは非常にヘボかった。
MSX-Audio
MSX-MUSIC以前に存在したFM音源の規格。

非常に豪華な構成で、音そのものが良質。かつADPCMによるサンプリング音を鳴らすこともできた。
国内では「MSXオーディオユニット」の名前で発売されたが、これ自体がMSX-Audioと呼ばれる事が多い。非常に高価(34,800円)で、全く普及しなかった。当時の実装技術の関係でカートリッジが異様に大きく、一部の機種には接続すらできないという問題もあった。

海外、特にオランダでは「MUSIC MODULE」という名前で比較的安価で売られた(元は高価だったが、作りすぎて叩き売りされたらしい)ために普及したため、そちらが主流となった。FM-PACは日本からの輸入のみで、日本のゲームを遊ぶためにしか普及しなかったようだ。
PAL
特にヨーロッパにおける標準的なテレビの表示方式。

一秒間に50回表示される。日本とアメリカ、韓国はNTSCと言い、一秒間に60回表示される。
PALを前提に作ったソフトは日本の本体やテレビでは正しく映せない場合がある。逆も同様。NTSC→PALよりPAL→NTSCのほうがハードルが高い。
自然画
MSX2+以降に追加されたスクリーン10〜12向けに作られた画像のこと。MSXとしては公式な名称。

スクリーン10〜12を自然画モードとも言う。2万色弱と今では少ない色数ではあるが、1980年代のパソコンが出せる色は一般に8〜16色程度であったため、わざわざこんな名前をつけても恥ずかしくはなかった。

ソニーから出たビデオデジタイザ「HBI-V1」(ビデオ入力専用のキャプチャボードに相当する)を接続することで、MSXの画面に変換できた。HBI-V1は当時としてはかなり性能が良く、奇麗な取り込みができた。ただデータ形式が特殊で加工するのは難しく、自然画モードがゲーム製作に使われることはほとんどなかった。
パソコン通信
パソコンによる通信のうち、主にホスト局に電話回線で直接接続して文章の読み書きを行うものを指す。

日本国内では1987年以降にホスト局の開設が許可されるようになった。
多くはBBS(掲示板)の集合体として管理されていた。現在のインターネットと異なりホスト局同士は接続されておらず、各ホスト毎に扱う話題や登録されるオンラインソフトなどに特色があった。

接続速度は1992年頃までは1200bpsが一般的で、非常に遅かった。パソコン通信は1994年頃から流行し始め、モデムの速度向上と価格低下が急激に進行した。MSX向けには本体に直接差し込めるモデムカートリッジが1200bpsまで複数種が発売された。現在はインターネット常時接続の普及により、商用・非商用共にほとんどのホストが廃止されている。

古くからMSXの話題が豊富だったのはASCII-NET、NIFTY-Serve、FALCON-NET、MARIO-NET、Natsume-Netなど。一般的なパソコン通信とは別に、MSX専用ネットワークとしてTHE LINKSが1995年まで存在した。
GENUINE NETWORK(G-NET)
かつて福岡にあったサークル。他のサークルがソフト製作を目的としていたのに対して、人材のマッチングとそれに伴う情報誌の発行を目的としていた点が特殊であった。「GENUINE NETWORK(ジェニュインネットワーク)」が正式名称で、通称がG-NET。マッチングにより完成した作品として「ぶれいん☆こんばっと」がある。

情報誌「TOMBOY」は確か32号くらいまで続き、途中で「Amatuer Now!」という題名に変わった。
1994年(?)〜2000年3月まで活動を行っており、その間は独自ドメインのWebページを開設していたが、現在は消滅してしまい記録がほとんど残っていない。
当時の名残りとしては、「Baboo!Japan」の背景にいる「みゅーくん」についてG-NETの公認マスコットキャラクターであることが書かれている程度。
情報バンク
上記「GENUINE NETWORK」のやっていたサービスの一つで、同人ソフトの通販代行のようなもの。TAKERUが存在した頃のものなので、未完成のソフトの頒布や体験版などが集まる傾向があった。地方の即売会にしか参加しないようなサークルなど、ここでしか手に入らないソフトも多かった。