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最終更新 02月06日

第1章 基本ルール、コモンパスを理解しよう

| 0章 最初のお酒 | 1 章 基本ルール、コモンパス | 2 章 雑菌を追い出そう  | 3章 お酒の社会学 |

コモン・パス(発酵のユニット)

 

ユニットの構造

プラスチックのregoというおもちゃがあるよね。ボチボチのある四角いやつです。一つをユニッ トといいます。レゴはこのユニットをたくさんつかって恐竜やら家やらつくります。発酵には決まった順番をもつユニットをもっています。発酵もユニットがあってこれをいくつもつかってさまざまなお酒のつくり方をします。

このユニットのことをコモン・パスといいます。次のルールと順序が一つのユニットとして発酵は進みます。

compath.gif

  • 多少はかならず雑菌がいる酵母(種とももとともいいます)を発酵用に準備します。
  • その種に雑菌バリヤー(FW) をセットします。
  • バリヤーが準備できた後に、お酒になる糖分原料を入れます。
  • 自動的に発酵が開始します。
  • 発酵学的には、酵母の増殖過程を一本の線で表現します。これをクリティカルパスといいます。たくさんの原料やエネルギーを使う工程順に並べられている、お酒製造企業の通常の製造工程の表現とは少し違います。
  • コモンパス終了時点で、純粋な酵母、アルコール・乳酸、およびお酒が酵母の力で増加しています。コモンパスは純粋酵母を得るユニットです。

コモン・パスはまだ新しい言葉だけど、世界語だからかっこよくカタカナ言葉でつかおう。発酵のユニットとして共通な順序(common;コモン、pathway;パス)というわけだ。

雑菌はFW (Fermentation Wall) で排除される

最初に酵母が入っている原料を種酵母(たねこうぼ)といいます。多少は雑菌がいる酵母でも発酵が進むにつれて雑菌バリヤーで酵母は純粋になってゆきます。途中で必ず容器についていたものや空気から侵入してくる雑菌もバリヤーで撃退されてしまいます。

その種に雑菌バリヤーになる原料を入れたり、微生物に作らせたりします。バリヤーは乳酸でもアルコールでも、ホップの煮出し汁でも、乳酸の入ったすえたオニギリでもいいのです。あるいは色々組み合わせてつかわれてもいいのです。フタをしたり、容器を熱水で消毒するのも雑菌バリヤーの一つです。

バリヤーが準備できたらすぐ後に、「麦汁」や「蒸した米+麹」など、お酒になる糖分原料を入れます。
糖分原料が相対的に量が多いために、この糖分原料の中に FW 物質を入れたり、発酵などで準備することも多いです。

自動的に発酵が開始します。

バリヤーは、言葉で説明されるときはわかりやすいのだけど、濃度の影響が説明できないので、ウォール(壁:かべ)といいます。
どういうことかというと、乳酸が発酵液に入っていても、うすい濃度だったら雑菌をおさえるどころか乳酸そのものがエサになってしまってむしろ雑菌がふえてしまいます。ある濃度以上から乳酸はバリヤーになるのです。これを絵で説明するには濃度を壁の高さで表現します。乳酸の壁を微生物が飛び越してエサにありつくにはジャンプ力が必要です。低い乳酸のかべなら雑菌も簡単に飛び越してしまいます。しかし、乳酸の壁が高ければ、雑菌は飛び越せず、酵母と乳酸菌だけが飛び越せるようになるのです。

乳酸の濃度効果いろいろのFW物質効果

低い乳酸の壁であっても、その上にアルコールの壁や、ホップの壁をのせれば、もっと高くなります。それぞれの高さは低くても色々なバリヤー物質を組み合わせれば雑菌が飛び越せないように高くすることができます。
濃度や種類のことを説明するにはバリヤーより壁の方が説明しやすいので、
この雑菌バリヤーのことをファーメンテーション・ウォール(発酵のかべ)といいます。

酵母も乳酸の濃度が高いと壁を越えられないんだけど、糖分という棒をつかって棒高と びをするからかべを飛びこせるんだ。

 

FW(Fermentation Wall)の濃度が発酵方法を決める

発酵方法と乳酸濃度の変化 たとえば日本酒のように乳酸をFW物質とします。乳酸を希釈しすぎると濃度が下がりすぎて雑菌のバリヤーにならないのはすでに知っています。

日本酒が 3 段仕込みになっている理由はなんでしょうか?
右の事例では、 2 段仕込み(赤線)と、 2 段仕込む分を一度に仕込んだもの(黄線)との二つのケースで、乳酸濃度がどのように変化するかを見たものです。酵母は発酵中に乳酸を分泌(ぶんぴ)します。

一度に最終の量になるようにモロミを仕込むと、乳酸の濃度が下がりすぎて雑菌が生育できる濃度にまで下がってしまいます。このケースでは腐敗になります。

2段で仕込むことによって、乳酸の濃度を雑菌を抑える濃度の範囲にしているのです。
酵母が作る乳酸の量がたまる期間はモロミは入れていけないですね。

同時に酵母を増殖(ぞうしょく)させて,純粋な酵母を増加させ次の発酵の大数の法則(次章 雑菌を追い出そう 参照)も効かそうとしているのです。
少なくとも酵母が2倍に増える期間は次のモロミを入れてはいけないですね。

一度にたくさんの量を仕込むと腐敗させる理由がわかったかな。時間はかかるけれど、少しずつ増やしてゆく方法が一番良質の酒を造ることができます。それが段仕込をする第1の理由です。

 

固体発酵のファーメンテーション・ウォール

 

FW の種類

ファーメンテーション・ウォールとは、酵母だけえこひいきする仕掛けのことなんだよ。例えば酵母がいちばん住みやすい条件にしても、通常は他の雑菌のほうがよりふえやすくなるから、酵母もつらいけど雑菌には耐えられない条件が選ばれるのが普通です。

ファーメンテーション・ウォールには、乳酸・クエン酸・酢酸などの有機酸の他に、発酵でできるアルコール・炭酸ガス、酵母だけが強い低温など物質とか物理的条件などがあります。有機酸の中では最も乳酸が静菌力が高いです。

また植物の絞り汁・煮出し汁などもFW効果をもっています。ビールに使うホップなどがこの目的でもつかわれています。タンニン酸のようなポリフェノールなどもこの中に入ります。 酵母には効かないが他の微生物に効く抗生物質もこの中に入りますが、あまり飲み物に入っていて気持ちのいいものではありません。

とにかく雑菌がいつ発酵液の中に入ってきても撃退できる仕掛けのことを言うわけです。

もっともよく利用されているのが乳酸ですが、乳酸は乳酸菌だけでなく酵母も発酵液の中に作ります。酵母が発酵を開始すればアルコールと乳酸を作るので、おおむね雑菌の侵入があっても大丈夫です。だから最初の酒母づくりでできるだけ純粋に酵母だけを作る技術が大事になります。それにはファーメンテーション・ウォールが上手にできていることが最初の条件なのです。

日本の味噌も大豆を使って固体発酵をさせています。蒸した大豆に米麹を入れて糖化させ酵母も生育できるようにします。さらに塩で浸透圧を高めて、雑菌が増えるのを防いでいます。 味噌づくりには失敗なしという言葉があるほど、固体発酵は安定した発酵方法です。

昔のお母さん達はファーメンテーション・ウォールの扱いかたの達人だったんだね。

パン生地の中のファーメンテーション・ウォール

小麦粉に砂糖と酵母を入れて、塩をちょっと入れてこねるとパン生地ができます。パン生地はこねていると、コムギからグルテンというネバネバした物質ができあがります。酵母は、砂糖(これも糖分だよ)を食べて、炭酸ガスとアルコールを出すから、パン生地の中には小さな泡がたくさん出来上がります。焼いたパンがふわふわしているのは、この泡のおかげだね。

パンを焼く前のパン生地の中にはグルテンで仕切られた小さな部屋がいっぱいあるんだよ。その中に炭酸ガスがたまるから泡ができるんだ。

少量の水で小麦粉をこねると、パン生地の中にミクロのコップがたくさんできるんだね。これは、パン生地の中では発酵のユニットであるコモン・パスがたくさん平行してすすめられていることなんだ。

たくさんのコモンパス
部屋の中には何があるかな?ちょっとの水と、酵母と砂糖と塩少々。塩は味の調整もあるけど、小麦粉の中に酵母の生育を妨害(ぼうがい)する物質があるのでそれを抑えるためにいれます。

ミクロのコップの中に砂糖水と酵母があると始まるものな〜んだ?

そう、発酵だね。水が少ないからちょっと発酵してもすぐに高いアルコール濃度になります。パン生地の中ではすぐにアルコールのファーメンテーション・ウォールが出来上がるから、雑菌が増えてパン生地が腐ることはあまりありません。

パン生地は、純粋な酵母をふやす製造装置でもあるんだよ。ちょっと工夫をこらしてパン生地を作れば、生きた酵母をずっと保存しておける酵母保存装置にもなるんだ。

自然発酵パンのサワー・ドウ

サワードウのでき方

サワーってすっぱいという意味です。乳酸のすっぱさのことです。ドウとはパン生地のことです。

つくったパン生地を全部つかってしまわずに、一部を生のままで残して、次のパン生地に混ぜてつかうやりかたをずっと続けていると、パン生地の中に決まった乳酸菌と純粋な酵母だけが生き残ります。乳酸菌が乳酸をパン生地の中にすばやくつくるから、雑菌がまわりじゅうにいても、ファーメンテーション・ウォールになって増えることができないのです。

この乳酸菌は、すっぱさだけではなく、ビタミンとかとてもよい香りをつくるので普通のパンとちがって、特別にサワーブレッドとよばれます。ヨーロッパでは、人気のあるサワードウはその家で何百年も大事にうえつがれているみたいだよ。パン生地が酵母保存装置になっているんだね。

このサワー・ドウは酵母を純粋に保存しているので、他から酵母を入れなくても、パン生地が自然に発酵して膨らむところから自然発酵パンと呼ばれています。 じつは、大昔にふわふわの発酵パンができたのは、おなじ土器でパン生地をこねていると、自然にパン生地が残ってサワードウになったからといわれているんだ。

昔の小麦粉は、今のように糠(ぬか)の成分を除いていないから、乳酸菌の生育はいまよりもっと早かったはずだ。それにライ麦などの雑穀をより分けずに粉にしたから余計にサワードウになりやすかったのです。砂糖がまだない時代には甘い食べ物をとてもみんなが求めていました。焼いたパンと麦芽の粉とを水でこねると甘くなることはすぐに気づきます。パンを焼くと水あめができました。水を入れてほっとけば、お酒になった可能性はとてもたかいのです。

現代のエジプト、スーダンやエチオピアでは、パンと麦芽で作るこのようなやりかたのお酒がのこっています。エジプトではブーサ、スーダンではメリッサという名前です。約3000年前のエジプトの壁画にも、このお酒作りの方法が描かれています。

パン生地は、コモン・パスがたくさんある発酵状態だっていうことがわかったかな。

じゃあ次は、餅麹はどうかな。

餅麹(もちこうじ)も酵母を選択保存するやりかた

東南アジアやほかのアジア地方には、色々なでんぷんの粉を水でこねてお餅のような麹をつくります。カビがいっぱい生えているので、これまで麹としてしか表現されてきませんでした。

でもお母さん達は、酵母をいれずにこの餅麹から上手に酒を作ります。この餅麹には、アミラーゼをつくるカビと、それを利用する酵母がほぼ純粋に生きているのです。日陰で乾燥すると、胞子をつくって、長く生きています。 でんぷんを煮たり蒸したりすると、カビはつきますが、酵母の種としての培養にはあまり成功していません。

普通のご飯のようにでんぷんに水分をたっぷり含ませると、カビのアミラーゼが効きはじめた段階で、ご飯が溶け始めて液体になってしまいます。こうなると、水が少ないために不利だった雑菌が有利になってきて、腐りやすくなります。でんぷんを煮たりすると、ミクロのコップにならないのです。
お酒作りには、ふつうでんぷんは水と一緒に加熱されますが、酵母がたっぷりあるときの話です。一番初めには、酵母も少なく、雑菌が多いため、ミクロのコップのできる生の加熱されないでんぷんがつかわれることがおおいのです。

でんぷんを水のあるところで加熱すると糊の状態になるので糊化(こか)あるいはα化といいます。糊化したでんぷんなら、アミラーゼという糖化酵素が素早くでんぷんを分解して糖分にしてくれます。 しかし、生のでんぷんはアミラーゼが接近しにくい外壁ができていて非常にゆっくりしか糖化は起こりません。

酵母が少ないときには、生のでんぷん質でも糖が供給されますから乳酸があっても酵母は生存することができます。種酵母を作る段階で生のでんぷんを原料にするのは、ミクロのコップができやすい性質を選ぶことができるからなんだ。

ところが、酵母が多量に生存しているときに、糊化しない生のでんぷんを原料としていると、アミラーゼが供給する糖分が極端に少なくなってしまいます。液中に糖がない状態では乳酸の中にいる酵母は生活できなくなり発酵が止まってしまいます。それは腐敗を意味します。だから、酵母が増えた段階で、でんぷん質を供給するときには必ず糊化したでんぷん質を原料とします。

すなわち、発酵につかうでんぷんは糊化されたものをつかい、種酵母づくりには生のでんぷんがつかわれます。日本酒では、黄麹のでんぷん質液化力が弱いので、固く蒸した状態でもミクロのコップ状態が保てるのです。

餅麹の表面は、乾いて酸素が多いのでカビが生えてきます。そして水分の多さで、生えてくるコウジカビの種類も変わってきます。それはお酒の種類が変わってくることを意味しています。

酵母の種を作るには、生のでんぷんをつかうこと、つかう水分をひくくして固体発酵にしておくことなどが大事です。
固体発酵の生地のなかにアルコールや殺菌力のある植物などを入れてさらに酵母の純粋培養を安定させた例もあります。

固体発酵をさせているときに添加する植物などには次のような3つの意味があり、どれが主要な目的なのかは科学的な調査が必要なんだ。もちろん3つの意味を同時に持っていることもある。

  1. FW物質として、抗菌性物質を添加する。
  2. 表面に付着している乳酸菌と酵母を添加する。
  3. 果実糖分を初期の糖分補強に使う。

こうした餅麹は、水分が急速に乾かないようにするため、バナナの葉や狭い部屋に入れて湿度を保つ工夫がされているのが普通です。

酵母種をつくる、いくつかの方法を、ミクロのコモンパスが平行して行われている事例として紹介してきました。

約3000年前のエジプトでは、ファーメンテーション・ウォールとして乳酸ではなくワインのアルコールを麦芽パン粉に入れる方法で、固体発酵をさせていました。
この場合にはアルコールの殺菌力が強いため、蒸したパンのように糊化させたパンをつかっても酵母を純粋に培養(ばいよう)することができました。今でも通用するすごい技術です。

さて固体で発酵させると、酵母が純粋培養されやすいのですが、酵母の数はたくさんの人が飲む量のモロミに入れるにはまだ少ない状態です。だからいったん「大数の法則」が効果的に作用する量の少量の麦汁や果汁などで、酵母を増やすための発酵をさせます。こうしてできた発酵液のことを酒母といいます。酒母を造るにもコモンパスの順序どおりに行われます。

段仕込をコモンパスで表現する。

 

日本酒では、お酒を何回にも分けて仕込み、ほぼ倍々にお酒の量をふやしてゆく方法で造ります。この方法を段仕込(だんじこみ)と呼んでいます。ビール製造でも、酵母を新しくするときには段仕込で酵母を増やします。

段仕込のコモンパス表現

この段仕込をコモンパス表示してみましょう。右図はパンや麹製造時の固体発酵から2段仕込までのプロセスを表示しています。黄色は酵母を示しています。

固体発酵ではミクロのコップでたくさんのコモンパス・ユニットが平行発酵して種酵母を作ります。

この種酵母に液体の糖溶液(または麹+ご飯)@を添加すると酒母になります。コモンパスを一回終了すると、できる酒には増殖した純粋な酵母ができているので、次のモロミAを入れる場合には、これが酵母になります。

図の一番下に表示したのが 2 段仕込の場合のコモンパス表現です。形状がコモンパスユニットになっているのがわかりますね。横の枝が 2 本出ているのでこの絵を見るだけで 2 段仕込とすぐわかります。 さらに、クリティカルパスは直線で表現することにしていますので、どの工程が酵母源を作っているか、枝の生える位置でどこが工程の区切りかを見て取ることができます。

日本酒の場合、もと造りは1段目に考えません。それだけ真剣に神聖な作業でしたから、特別の作業だったのです。しかし醸造学的には最初の液体酵母取得の方法ですからこれが 1 段目です。同じ工程の呼び方が、酒作りの思想によって 段数は1 段であるか 2 段であるか変わってきます。

これまでのお酒の製造工程を表示する方法は、米を蒸したり、麦汁を作るなどの作業が大変なプロセスを中心にしてお酒作りのプロセスを表示する方法が大部分でした。この表記方法は製造メーカーにとっては便利なわかりやすい表現方法ですが、醸造学的な醸造原理の比較には不向きでした。

コモンパスの表現方法は、世界中の酒の製造プロセスについて、表示された形状で原理がすぐに理解できます。コモンパス表示すれば、自動的に段数が世界共通の表現になります。

発酵様式のコモン・パス的表現

 

日本酒の製造方法は、平行複発酵と呼んでいます。発酵段階で、糖化という発酵形態とアルコール発酵という形態が同じ桶の中で平行して行われるからです。
一方ビールなどは、糖化と発酵は前後に別々に行われます。これを単発酵と呼んでいます。これをコモンパスで表現すると次のイラストのように明らかに違うことがわかります。赤い色で示した糖化が行われる場所がちがうでしょ?
糊化というのはでんぷん質に水を加えて加熱し、アミラーゼという糖化酵素が作用できるようにする作業を言います。

果実は通常でんぷん質ではなくすでに糖化された状態の糖類がジュースの中に入っているのが普通です。だからワイン製造などには糖化工程はいりません。

新王国時代の古代エジプトビールは、酒造様式としては日本酒と同じ作り方であったことがわかりますね。

このように酒造工程をコモンパス表現すれば、どのジャンルの作り方かを図上で表現・分類できます。

ferm_style.gif

 

アフリカ、スーダンの酒 メリッサ(merissa)

 

さて、コモンパスの事例を見てみましょう。
スーダンにはメリッサ(Merissa)というお酒があります。古代エジプトビールの造り方を今に伝えているといわれたお酒です。おそらく、フィールド調査で作り方を聞いても、造り方が複雑で、外国の人が日本酒の作り方を始めて聞くような理解しがたいものだと思います。しかし、これをコモンパス表現にすると、単純な2段発酵で、原料は違っても醸造学的には日本酒と全く同じ原理で造られていることがわかります。

merissa.gif

図はメリッサの製造工程です。

アルファベットは現地での半製品の呼び名です。黄色は酵母源、茶色は乳酸とアルコールのFW物質の存在、濃いブルーは糖質源および緑色はアミラーゼ源を示します。
2本の枝があるので2段発酵ですね。

ソルガムとは中国で言うこうりゃんの一種で小さな球状の穀物の種類です。これを発芽させ粉にしてパン生地を作ります。生地の中では乳酸菌が乳酸を作ります。

これをパンに焼くと、発酵の最初に必要な糖が確保でき、でんぷん質の糊化が同時に達成できます。この中には乳酸が入っていますから、FW物質も準備できているわけです。乳酸菌や雑菌も熱殺菌できるし、一時的に保存することもできる合理的なやり方です。

アミラーゼ源は麦芽ですから、2段発酵でも1週間程度で全部の発酵が完了するはずです。発酵2段目では、でんぷん質を futtara とよばれるかゆにして、一気にアミラーゼを効かせる工夫をしていますね。

コモンパスとアミラーゼ添加のルール

 

でんぷん質を糖に変化させることで初めて酵母はアルコールをつくることができます。糖化を行わせるには、アミラーゼという酵素を持つ物質をかゆ(糊化でんぷん)の中に添加させます。良いアミラーゼ源を得る技術は酒作りでも最も大事な技術の一つにあげられます。

アミラーゼを持つ物質の代表が、麦芽や麹です。一般に米やとうもろこしなどの穀物一般は、発芽途中で乾燥させて作る穀芽のなかに豊富なアミラーゼを含みます。

コモンパスのなかには、麹や麦芽の添加タイミングについては何も表現されていません。不思議におもいませんか?
アミラーゼ源の添加方法については一般化できないのです。

お酒作りをする中で、必須の知識として知っておかなければいけないのは、乳酸は酵母も殺すということです。ただ他の菌と酵母との違いは、乳酸の中に糖が共存すれば生存できるという点です。

この性質が、アミラーゼ添加時期の設定には最も基本的な知識になります。 発酵途中に糖を瞬時でも切らさないようにアミラーゼを添加するのです。これがアミラーゼ添加の判断基準になります。

酵母を乳酸の入った溶液に入れた場合、直ちに利用できる糖がすでに共存している必要があります。そのためにはあらかじめ麹を先に入れておいて糖をある程度蓄積した後で酵母添加する必要があるのです。
あるいは、補助的に砂糖や果汁を酵母と同時に添加するといった配慮が必要になります。

さらに、穀芽のアミラーゼの場合には増加することはなく、発酵液内での減少が起こります。大体の目安でいえば3〜4日間でアミラーゼは消失します。だから穀芽の場合最大の発酵期間が3日間程度のものなのです。1日にアミラーゼの力が半減する計算になりますからなんとか発酵期間中にアミラーゼの活性が落ちない工夫が上手な発酵の工夫となります。

古代のエジプト人たちは、麦芽を粗く挽(ひ)いておき、発酵の初めは粉粒表面の溶け出したアミラーゼで糖を作らせ、1.5日後に発酵液を裏ごしをかけることで粒の中にある、未使用分のアミラーゼを露出させる方法でよいビールを造りました。
粉作りに手抜きをする主婦の方が上手に酒をつくったのだと思われます。

日本の麹は、最終的に水分 30 - 33%程度になるように固く蒸した米粒のなかに菌糸を食い込ませる「はぜこみ」という麹造りを重視します。そして、発酵液の中で蒸した米を力ですり潰さず、麹で溶かさせるように指導しています。麹から溶出するアミラーゼができるだけ長い期間にわたってゆっくり出てくることを重視しているのです。すりつぶしてしまうと最初の日に全部のアミラーゼが溶解してしまうでしょ!

カビをアミラーゼ源に使う方法は、発酵中にも新しくカビが多少のアミラーゼを作り出してくれることが期待されます。
日本酒は発酵温度を少しずつ下げながらですが、最後に麹を添加してから一ヶ月近くの発酵期間を保つことができます。穀芽とカビのこのアミラーゼ供給の違いによって、日本酒は醸造酒の中では端正で世界でも最も高いアルコール濃度の上品なお酒を造ることに成功しています。

それでも、 3 段仕込の間は、1〜2日の間に次の麹と蒸米を投入するというような発酵が最も盛んになった時期に次の麹を入れるという配慮をして酵母が途中で乳酸でへたらないようにしています。
乳酸をFW物質として選ぶ以上、発酵の最盛期(たいてい室温では2日程度)に次のもろみとアミラーゼ源を入れることは世界の定番のやり方のようです。
酵母がその環境温度で分裂して二倍になる期間がだいたいつぎのモロミを入れるタイミングになるようです。

ビール造りのように発酵を完全に止めてしまった後に回収した酵母を使うと見かけほど発酵が良くなりません。酵母を再利用しようとしても、発酵終了時には酵母が分泌した乳酸の濃度が上がっていて、かなりの酵母がへたってしまっているのです。
対策としては、まだ発酵途中でも酵母ぬきをしてすぐに真水の冷水で洗浄することが大切です。もし酵母を再利用するのなら酵母洗浄はとても大事になります。

 

アミラーゼとデンプンの性質をコモンパスに組み込んで発酵工程を設計する

 

アミラーゼは卵の白身と同じようにたんぱく質の一種で酵素の種類にはいります。だから、高い熱をかけると卵の白身が固まってしまうのと同じようにアミラーゼも高温で変性してしまいます。変性するともうアミラーゼのデンプンを糖に分解する性質はなくなってしまいます。例外的に砂漠で育つ大麦だけはアミラーゼは約70℃でデンプンを分解できます。

困ったことに、天然のデンプン質は一般に粒状で、外壁がアミラーゼで簡単に分解されない構造をしています。デンプンを作る植物が発芽するスピードにあわせて分解されてゆくように、非常にゆっくりした分解速度になります。
生のデンプン粒のままでは発酵の酵母がほしがるすごいスピードの糖分要求を満たしてはくれません。ゆっくりだと酵母が糖不足で弱って雑菌が生えたり、工程が長引いて仕事にならないなどのことが起こります。

そのため、発酵用の糖を作る場合には必ずデンプン原料を煮たり蒸したりして糊化という作業をおこないます。かゆに近くなるほど、アミラーゼの分解速度が早くなります。

おや困りましたね。
アミラーゼを持つ原料は加熱してはいけないし、デンプン質原料は加熱しなければいけない。ここにアルコール発酵をデンプン質で行うには、仕事の手順が理にかなっていなければいけないということが起こります。酵母の増殖工程も加熱できません。

だから酵母の増殖工程とは別に平行して糊化する工程を行っておいて、冷却してすぐに増殖工程に投入するという工程が一般的になるわけです。

日本酒ではこうじを作る前に、蒸した(糊化した)米を冷ましてカビつけをします。こうじのデンプンも利用できる合理的な方法です。日本酒はろ過して澄み酒にしてもデンプン質の利用効率は高いです。

東南アジアの餅こうじなどは生のデンプンを用いることが多く、この場合はデンプン質のアルコール転換率は低くなります。
ろ過するとデンプン質がかなり失われて損ですから、どぶろくのようにろ過を行わずに飲用することが多くなります。酒というより食品のジャンルで意識されることも起こります。

乳酸濃度増加酵母の分裂時期の知識とアミラーゼ減少およびデンプン質の糊化の知識をパズルのように組み合わせて、発酵工程を設計します。太古の主婦は観察による知識で発酵工程を組み立てたんだね。最初の科学者だったかもしれません。

 

自然から酵母を純粋分離する方法

 

純粋酵母取得の一般論

現代では、お酒造りには自然から優良な酵母を純粋に取り出して、純粋に培養したものを使うと信じている人が多くなってしまっています。このようなやり方で得られる酵母を理論的純粋酵母といっておきましょう。酒造りの技術者までそう考えるようになってしまいました。なまじ学問が進んで技術も進んだ結果、酒造りもずいぶん狭いものの考え方になってしまったものです。

いっぽう、昔ながらの酵母を育てるやり方でつくる酵母を醸造的純粋酵母とよんでおきましょう。

ワインの世界で一時ドイツワインが優秀なワインを作り出し、ワインの世界を揺るがしたことがあります。ドイツらしく、ビールの技術を使って、優良な酵母を純粋培養して作る学術的な方法で造ると、ワインは品質の良いばらつきの少ない上品な良いものに仕上がります。でもそれだけです。人の心を揺るがすような感動を呼ぶワインではありません。理論的純粋酵母でつくるワインでした。

感動を呼ぶワインとは、根性・愛情で造るものでもありませんが、ワイナリーの地域にあわせた独特の製造条件で生み出されます。ワインマスターが苦労してその条件を探り出すのです。日本酒が硝酸菌、乳酸菌、産膜酵母、野生酵母などの消長を経てもとが造られるのと同じように、酵母が働くだけでなく、その後の熟成までいろいろの菌相が協力して他の追随を許さない品質の芸術品が生まれます。決して酵母だけがワインを造るのではありません。醸造的純粋酵母のワインです。

だから、酒造りの純粋酵母というのは、良いアルコール発酵を継続できる程度の醸造酵母を主体とした菌の混合体なのです。そういう意味で純粋酵母を得る方法とは、正常な発酵を旺盛にしている状態の発酵液中は醸造的純粋酵母になっています。ファーメンテーション・ウォールとは雑菌のバリアーでしたよね。酵母をえこひいきする方法が少し変わるだけで、モロミの中の菌相が大きく変化してしまうものです。良い酵母を得るということは、酵母を得るまでに、二つのことを期待しています。

  1. ファーメンテーション・ウォールを作るまでの菌種変化でもたらされる代謝物質を含有させる。
  2. 良い味わいと香りをもたらす酵母を主体とした菌種混合体を得る
言葉だけで「純粋酵母を得る」という理解だけでは、感動させるレベルのお酒が造れるわけではありません。すなわちお酒の発酵のさせ方こそが純粋酵母を自然のなかで得る方法なのです。

良い酒を作るということは、発酵経過の中である時期に酵母以外のある菌を特別に作用させるということまで行われています。有名なものは、ワインのきつい酸味を和らげるマロラクティック発酵があります。これは乳酸菌の発酵がアルコール発酵と平行して行われるのです。
もちろん、よいワインの職人が経験とカンで編み出した技を後で学者が研究して明らかにしたわけです。

自然から純粋酵母をとる方法とは、次に示すような周りで普通に行われていることです。もうコモンパスの理論を知っているあなたは2章の雑菌を追い出そうを十分理解できるはずです。

  • パン種に使うためブドウやレーズンをつぶして自然発酵させる
  • ヨーグルトを使って乳酸を作ってこうじを入れる
  • 焼きオニギリを置いておいて少し乳酸発酵させてからこうじを使う
  • サワードウをつくる
  • 4%程度の弱いアルコールのお酒を仕込み用水にする
  • パンの中種を作るときにワインを入れてドウにする
  • 上記の方法にとうがらし、木灰、ホップ、その他の植物のジュースなどを入れる
理論的に純粋分離する方法なら、顕微鏡下でミクロマニピュレーターをつかって一つの酵母細胞を取り出す方法、発酵液を薄く希釈して寒天培地の上液をうすくのばし培養して、はえてくる単一のコロニーから取り出す方法などあります。
後者のやり方なら、甘酒の上澄液に寒天を溶かし蓋の出来るタッパーウエアなどの容器に広げておいてやれば家庭でも出来るね。ちょうど良い希釈度にするにはタッパーがたくさん要るけど。いまなら、東急ハンズなんかにシャーレは売っているか。

不思議なことに、日本のどぶろくは、びんに空気が少なくなるようにつめておくと、室温でも腐敗させず、かなり酵母を生かしておくことが出来ます。昔の主婦は、藁や布キレで硬く密栓することで、びんの爆発を防止しながら、空気の遮断もするという工夫をしていたんですね。今なら、ネスカフェのびんで、ばっちりです。

酵母の保存に不安が生じた時は、オニギリを放り込んでつなげばいいのです。

日本酒の研究がもたらしてくれた知識

日本酒の生もとづくりの研究から得られた知識は、お酒造りにはとても大事な知識をもたらしてくれました。

  1.  亜硝酸の生成

    私達の周りには、亜硝酸を生成するバクテリアはうじゃうじゃいます。通常これらの菌は、あまり高くない糖濃度で中性から弱アルカリ性だと、酵母や乳酸菌より早く増殖します。亜硝酸で死滅する菌群もあります。仕込んで8℃で4〜5日でしょうか。 麹を手で作れば、こうした亜硝酸菌はうじゃうじゃいます。

    亜硝酸は後で野生酵母を退治するのに役に立ちますから、これらの菌の存在は酵母のスターター作りにはとても重要です。 亜硝酸菌は、せっかく出した亜硝酸を、しばらくすると消費し始めるのでなくなります。この知識は酒造りには必要です。

  2.  乳酸の生成

    亜硝酸が生成した頃に、ようやく乳酸菌が活動を開始し始めます。モロミのpHが急速に下がり始めます。同時にほとんどの雑菌と言われる菌群が死滅し始めます。乳酸菌の一部が死滅し始めます。このときにモロミ中の糖度はかなり高いことが酵母を選別するには大事です。

    Pseudomonus属(亜硝酸菌) 乳酸で死滅	アルコールで死滅   高糖濃度にやや弱い
    Micrococcus属(乳酸菌)  乳酸で死滅	アルコールで死滅
    Lactobacillus属(乳酸菌  乳酸でも生存	アルコールで死滅
    Bacillus属(枯草菌)       乳酸で死滅	アルコールで死滅
    野生酵母		      亜硝酸+乳酸で死滅
    醸造用酵母		      亜硝酸+乳酸の条件で生存
    腐造性乳酸菌	      亜硝酸+乳酸+アルコールで生存増殖
    
  3.  アルコール発酵の開始

    野生酵母の作る酒は香味が不良で、人には好まれません。野生酵母の増殖は早いですから、まず野生酵母がアルコール生成をはじめますが同時に増えている乳酸菌が乳酸を作り始めると、(亜硝酸+乳酸)効果で死滅し始めます。目的の醸造用酵母はやっと動き始める鷹揚さですね。
    もと作りの時には、苦くて飲めないくらいに乳酸菌にどんどん乳酸を作ってもらうのがコツです。 アルコール発酵が進み始め、アルコール濃度が4〜5%くらいになると乳酸菌も死滅をはじめます。やっとここで醸造用酵母が純粋になったわけですね。

    この時期になると、発酵温度を上昇させても安全です。そのほうが酵母の増殖速度も早くなります。大自然から醸造用酵母だけを育成した、もと完成!

  4.  やり方いろいろ

    今の酒造家はこんなまだるっこしくて、失敗も多そうなことをやらずに、化学物質の乳酸をモロミに添加し、研究室で純粋に培養した醸造用酵母を添加することでお酒をつくってしまいます。

    昔の家庭の醸造家は、身近にある素材でこうした亜硝酸菌や乳酸菌の確保をしていました。麹の中にも酵母、乳酸菌、亜硝酸菌は入っていますが、もっと積極的に誘導する方法を知っていました。
    ひとつはお粥や、焼きオニギリを少し置いておいて、菌の発生を誘導し、米をとぐときに混ぜ込んで1日ほど置いておきます。米のとぎ汁中には糠成分が有りますので亜硝酸菌や乳酸菌が優勢になってきます。ここでとぎ汁をザルで漉してとっておき、お米はふかして原料にします。麹を入れるときにとぎ汁を入れれば亜硝酸や乳酸はばっちり入っているという状態になります。
    もっと簡単なやり方は、乳酸が入っているものがあればよいのですから、ヨーグルトを入れる醸造家もいます。もちろん亜硝酸がないため、酵母はドライイーストを使うようですが。

    仕込み液に前の酒を入れるという方法があります。気がつかないだけで世界中の酒造りはこの方法を使っています。日本酒の段仕込はその例です。

    古代エジプトの人々は、デーツワインやワインのアルコールを酒造りに使いました。冷える季節のないエジプトで酵母を純粋培養することはとてもすごいことです。彼らはサワーパン生地にワインを練りこんで酵母を培養しました。
    他の方法として、干しデーツ(非常に糖度が高い)の皮を破って水を添加しておくとはじめは低糖度ですから亜硝酸菌が活躍し、すぐに高糖濃度に移行するために、安全にアルコール発酵に至ります。後は継代培養すればOKです。最初に発酵したワインを使えばまず失敗ない酵母種になります。

 

発酵期間を決めるもの

 

では、発酵期間が知りたければ飲んでみなさいという話をしましょう。 発酵期間を決める要因は発酵温度等もありますが発酵の成否にかかわるものは、主として次の3つです。

  • アミラーゼの残存量
  • 生成したアルコール濃度
  • 酢酸(さくさん)菌・火落(ひおち)菌の存在

アミラーゼ残存量

酵母がモロミの中で生きてゆくには糖がないといけないことはすでに知ってますね。ビールのように、最初に全てのデンプンを糖に変化させるやり方では、あまりアミラーゼは発酵期間に影響しません。

ところが、日本酒や古代エジプトビールのように、発酵の間にアミラーゼも糖化をしているような酒の造り方(平行複発酵)の場合には、発酵液中のアミラーゼ残存量が発酵期間を決定してしまいます。

麦芽を発酵液に投入して平行複発酵させると、麦芽アミラーゼは大まかにいって、1日で半減してしまいます。
1/2、1/4と減少してゆくのです。3日後には1/8ですからほぼ90%弱のアミラーゼはなくなってしまいます。

だから、発酵温度や雑菌の生育などでかなり変わるのですが、麦芽で平行複発酵するやり方ではせいぜい3〜4日が発酵期間になります。

発酵期間を延ばしてアルコール濃度を上げるには糖を添加したり、段仕込で麦芽を入れつづけるという配慮が必要です。

いっぽう日本酒はこうじをアミラーゼ源に使います。こうじはアスペルギルス属というカビです。生きたままモロミの中に入れますから、発酵中にカビも生きつづけて継続してアミラーゼを供給してくれます。うまく段仕込をして雑菌が排除できていれば、発酵期間は一ヶ月にも延ばすことが出来ますし、その分高いアルコール濃度にすることが出来ます。

生成したアルコール濃度

アルコール殺菌というくらいですから、アルコールは雑菌を殺します。でもこれはアルコール分が70〜90%くらいの高濃度の場合に殺菌液になるのです。

モロミの中に共存する雑菌の種類によりますが、経験的にはアルコール濃度が4%をこえるころから雑菌を抑える働きが始まります。ちょうど日本のビールのアルコール濃度くらいですね。

発酵は、雑菌がモロミ中に増え始めたらおわりです。
酵母の種から、液体のもとを作る場合には、アルコールが4%をこえていない場合には発酵せず腐敗します。もとが4%のアルコールであれば良いという意味ではありません。段仕込で液量を2倍にすることを前提にするなら、もっと高い、少なくとも8%以上のアルコール濃度にはなっている必要があります。

発酵の初期にできるだけ早く沸きつかせることができれば、後は低温に強い酵母に有利なように発酵温度を下げながら発酵期間を延ばすことが出来ます。低温で発酵させるメリットには、雑菌をおさえるだけでなく、発生する香気成分が上品なエステル香になるという香味上の理由もあります。高くても14℃がその境目になるでしょうか。

発酵初期に雑菌を抑制できるかどうかは、その後の発酵期間を左右するのです。良い酒を作るには、よいもと造りが決め手となります。良いもととは、旨い酒ではなく、乳酸がたっぷりのまずい酒ということになります。

酢酸菌・火落菌の存在

発酵がおわってアルコール分が高い酒が出来たら、安心でしょうか?通常は安心なのですが、まだまだ油断をしてはいけません。 アルコールが好みの菌もいるのです。

酢酸菌はその一つで、高いアルコール濃度でも空気に触れているところではアルコールを分解して酢酸にしてしまいます。これは醸造酢の作り方そのものですね。

お酒を放置しておくと酢に変化するのです。この性質は、酒に糠成分が多いほど酢になりやすくなります。日本酒は精米をします。米を研ぐというのは、高級感を持たせるためだけじゃないんですよ。糠成分の除去というちゃんと醸造的な意味があるのです。

火落菌は、かなり高いアルコール濃度でもアルコールを分解してしまうお酒屋さんには恐怖の乳酸菌です。アルコール17%前後でも速やかに増殖してしまいます。酒を全て捨ててしまわなければならない状況に陥ってしまいます。醸造酒の最高濃度の24%程度のアルコールがあっても、増殖速度がかなり落ちるだけでやはりほっておけば腐敗してしまいます。

皆さんは舌で判定するしかないですね。酒がすっぱくなりはじめたり、酢酸の臭いがし始めたらただちに火入れをする必要があります。あ、飲んじゃえばいいか。
でも酒屋さんでは、とても飲みきれませんから、兆候段階でアルコールを添加してすぐ火入れしてしまいます。当然安い酒ですね。

 

 

次章では、効果的な雑菌撃退をする方法についてまとめました。酒造りの基本、カンどころを理由と共に説明します。
前章は、麹が酒造りに使えることはどのようにして発見されたかの実験です。


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